Life on two wheels 自転車の話をしよう

「自分自身になれる」 / YeYeさん

自転車の話をしよう | 2025.12.03

自転車とはどんなものでしょうか。乗り物。移動手段。
ただ、それだけではない気がします。

どうにもならない気持ちで飛ばした夜の道。
実家を出て最初に住んだ街を、わくわくしながら巡ったこと。
はじめて自分の足でペダルを漕いだ息子の顔。
保育園の帰り、後ろに乗る娘と一緒に見た夕焼け。

世界がどれだけデジタルになっても、自分の足で漕ぐ。
アナログな乗り物には、だから、人のこころが詰まっていると
私たちは信じてこの連載をはじめました。
あの人と、自転車からはじまる話をします。

YeYeさん(歌手・ミュージシャン)
2011年にセルフプロデュースアルバムでデビュー。京都を拠点に活動し、音楽制作、全国各地でのライブパフォーマンスで人気を集める。2025年10月15日に、約3年ぶりのニューアルバム「Horse County」をリリース。作詞作曲と演奏はもちろん、ミックスまで自身で手がけた「最もパーソナルな作品」を送り出した。

お風呂に入るように、自転車に乗るように、音楽を作る。

 

YeYeさん
「今すれ違ったおじいちゃんと男の子。ぴかぴかの自転車に乗ってましたね」

 

撮影中、横を通り抜けていった人のことを、YeYeさんはよく見ていました。外を歩いていると、なんでも目に入ってしまう。昔からそうだといいます。

 

YeYeさん
「この人ちょっと今頭痛そうやな、とか。さっきは上着着てたけど今、脱いだなとか。いろんなことに反応して、頭が忙しくなって、疲れちゃうんです。だから基本的に出不精です。自転車に乗っている時の方が、素早く通り過ぎていくから、鈍感になれて楽です」

 

シンガーソングライターとして、京都を拠点に活躍するYeYeさん。その敏感さは、人の心を惹きつける繊細な音楽にも通じている気がしました。

 

ミュージシャンになったのは ”たまたま” だと言います。19歳の時、友人にライブのコンテストに誘われて、その賞金が100万円だった。当時、一眼レフカメラが欲しくて、その金額に惹かれて参加したと。その後レーベルから声が掛かり、自身で曲を作りはじめ、気づけば16年近くが経ちました。

 

昔から音楽が好きでした。ただ、彼女にとってのそれは「お風呂に入る、自転車に乗る、朝ごはんを食べるみたいなこととおんなじ日々」。当たり前にそこにある、自分そのもの。

 

ライブのとき、だから今もふと「なんでここで歌ってるんだろう」と不思議に思うことがあると。誰よりもYeYeさん自身が、いまだミュージシャンという生業をもつ自分を新鮮に見ているようにも聞こえました。

 

母親ではない “自分” になりたいとき、街を走る

 

歌を歌う自分は等身大。ですが、自転車に乗るときは「二段階くらい、レベルアップした生き物になった気持ち」。はじめてトーキョーバイクを漕いだ日、自分の体が考えられないほど軽く速く進み、羽が生えたように感じたと。以来10年以上乗り続けています。

 

 

YeYeさん
「京都には鴨川が流れていて、川沿いを一気に街まで下っていけるんです。ガタガタ道ですが、そこを自転車でシャッと走り抜けて行くのが好きです。

 

トーキョーバイクは、スピードを出して乗りたくなります。元々せっかちな性格で、自転車に乗ると、その部分が出てくるのかもしれません。

 

夜、ひとりの時間がある時には、人のいない道を全速力で走りにいくことがあります。子どもの頃は田舎に住んでいたから、車も全然走っていない道があって、どこまでも漕いでいけたんですよ。夜に走っていると、その頃を思い出します」

 

7年前に子どもが生まれ “ママチャリ” に乗るようになってからも、自分ひとりの移動のときにはトーキョーバイク。住み慣れた京都の街を、地図にはない自分だけのルートを縫うように漕ぎに出ています。

 

本当なら1台で事足りる自転車を、あえて2台。使い分けているのには、理由がありました。

 

YeYeさん
「子どもが生まれてから、音楽が変わった、歌う自分がお母さんっぽくなったと言われることがあって、それがいやでした。

 

歌詞に子どものことが書いてあるとか、顔つきが変わったとか。自分は一切、そんなことしてへんのにって」

 

周囲が無意識に植え付けるイメージへの違和感。音楽を作る自分と、母親の自分をブレンドされたくないという気持ち。

 

ひとりの時にはトーキョーバイクに乗る。それは、彼女にとって母親ではない自分もここにいると確かめること。「どうしても自分自身であるために必要なこと」だと言います。

 

子どもの声も、自分の一部。5年ぶりのアルバムに込めた気持ち

今年10月、5年ぶりに出した新しいアルバム「Horse County」には、意外にも子どもの声が録音されていました。

 

はじめて自宅でレコーディングしたというアルバムは、歌も、ピアノの伴奏もYeYeさんがひとりきりで手掛けたもの。曲の合間に流れるのは、コンロの火が点くチチチチという音や、学校から帰ってきた子どもの声。日々の暮らしを営む音が、彼女の歌声に寄り添うように、自然になじんでいます。

 

YeYeさん
「バンドを組んだり、人にプロデュースしてもらったり、これまでいろんなやり方で音楽を作ってきましたが、今回はそのどれとも違う、もう少し個人的で自分に近いものを作りたいと思いました。自分ひとりで。家で録ることに決めたのもそのためです。

 

はじめは子どもの声が入るのが嫌で、彼が学校から帰ってくるたびに録音を止めていました。でも、なんだかそれも違う気がして。私は母親らしさを入れないようにしすぎて、自分らしさごと、置いてきぼりにしてしまっているのかもしれないと思ったんです。

 

これも自分の一部やし、無理に境界線を引いたり、嘘をついたりする必要はないって。だんだんに、このままでいいと思えるようになりました」

 

前作を出してから5年。長い月日が経ったのは、一度空っぽになったから。次に何を作ればいいか、わからなくなった期間があったといいます。

 

YeYeさん
「前回のアルバムを、自分の中でゴールにしていたのかもしれません。終わってしばらく、虚無のような状態になりました。そこからしばらく時間が経って、ある日唐突に、ピアノや、と思って。気がついたら中古のピアノを買っていました」

 

自宅に届いた大きなピアノ。それまで、アナログのピアノで曲作りをしたことはありませんでした。ひとりきりでそれを弾きはじめ、1年半かけて、ひとつずつ曲が生まれていきました。

 

YeYeさん
「これまで、たくさんの方にサポートをしてもらいながら音楽を作ってきたので、心のどこかでいつも、期待に応えなきゃと思っていて。いつの間にか、誰かのために音楽を作っているような感覚になっていました。

 

このアルバムができていく中で、パートナーが、ひとつめの曲をチェロでアレンジして弾いたことがあったんです。すごく良かったんですけど、それが私にはなぜか悲しくて、涙が止まらなくなってしまって。
わたしはこの曲を人に奪われるのが嫌なんやって。そのくらい自分のための曲を、はじめて作れたんだと気づきました」

 

アナログのピアノは、デジタルの楽器に比べてごまかしが効かないといいます。乗せた指の重みがそのまま音になり、嘘がつけない。真正面から向き合わなければならない感覚を、最初は怖く感じていました。

 

それでも、自分を確かめるように鍵盤を鳴らしていったと。その姿は、誰もいない夜にひとり自転車のペダルを漕いだYeYeさんにも重なるような気がします。

 

YeYeさん
「デジタルなものと、アナログなもの、どちらの良さもあると思っています。曲作りにおいてもそうで、ふたつをいいバランスで使っていきたいと。
ただ、心のどこかで私はアナログなものを、より信頼しているのかもしれません」

 

自転車も、ピアノも、自分の力で動かすもの。自分自身になりたいと思ったとき、直感的にそれらを手に取ったというYeYeさんの気持ちが、わかるような気がしました。

 

自分でありながら、人と生きていく
ひとりきりで作り上げた音楽。その中で、アルバムの最後に収録された曲だけは、YeYeさんの歌にパートナーの伴奏が添えられています。

 

YeYeさん
「彼がいつものように家にいて、ピアノを弾いていて、それにわたしが自然に身を委ねるように。暮らしの一部みたいに自然に、一緒に音楽を作れた感覚がありました。
ひとりでやり切らないとと思ってこのアルバムを作ってきましたが、これも、自分の表現の一個としてありなんやって、改めて思えた気がします」

 

ひとりきりで没頭した時期を経て、もう一度、人と作ることに向き合えるようになった。YeYeさん。それは、誰にも揺るがされない”自分自身 ” に近づいたからなのかもしれません。

「最近、息子が自転車に乗れるようになったんです。だから息子のトーキョーバイクを買いにいきたいと思っています」

 

これからは二人乗りではなく、それぞれの自転車に乗り、並んで走っていく。それは、YeYeさんらしい親子の形にも見えました。

 

 

 

編集・文 / 瀬谷薫子
写真 / 橋原大典
この記事に登場する自転車

TOKYOBIKE BISOU
7段変速で、坂道からスピードを出したい場面までオールマイティに活躍する自転車。アップライトでゆったりした乗車姿勢と広い視界が魅力です。

この自転車について詳しく

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